林業・木材講座 8 ナラ枯れ

① 被害の状況

全国的な被害については、平成22年に過去最大の被害量(約33万㎥)を記録して以降減少しているが、被害府県数は増加している。
東北地方では、平成28年の被害量が、宮城県を除き増加した。
岩手県では、平成22年に奥州市で初めて被害が確認され、平成28年度は、9市町に被害が拡大している。(図1)

② 被害の対象

被害を受けるのは、本州ではナラ類であるが、九州ではシイ類やカシ類にも発生する。ミズナラ、コナラ、カシワ、クリなどのナラ類の中でも特にミズナラへの被害が多く、枯死する割合も高い。
被害木は、夏に突然に葉が枯れる。多くの事例から、最初に被害を受けるのは付近で最も大きな木であることが分かっている。
当初は1本だった被害は翌年以降付近に拡大し3、4年後には集団的な被害となる。従来の被害ではその後徐々に終息に向かい、5、6年後には発生は終わっていたが、最近ではこのような集団があちらこちらに発生し全山に拡大している。

平成28年度岩手県民有林の被害箇所
図1 平成28年度
岩手県民有林の被害箇所
     

③ 被害の見分け方

被害を受けた木は、カイガラムシ類の被害と同様に、夏から秋にかけて葉が枯れて遠くからでも確認できる。「ナラ枯れ」による被害木の特徴として幹から大量の木屑が出ていることである。(写真1)
さらに注意深くみると、樹皮に直径2mm未満の丸い孔が観察される。(写真2)
この2点が被害判定の決め手である。
幹にある丸い孔は、キクイムシの仲間のカシノナガキクイムシの穿入孔で、細かな木屑はこの虫が幹の内部にトンネルを作るために削ったかすである。 穿入孔は地表近くに多く大部分は地上2m以下の部分にある。

排出された木屑
写真1 排出された木屑
成虫の穿入孔
写真2 成虫の穿入孔
(カシノナガキクイムシ)

④ 被害発生のメカニズム

「ナラ枯れ」は、以前はカシノナガキクイムシによる虫害とされていたが、最近になってナラ菌を病原菌、 カシノナガキクイムシを媒介昆虫とする病害であることが解明された。(写真3)
「ナラ菌」はカビの一種で、健康な樹木の中で繁殖し、水を通す組織を破壊し、木を衰弱・枯死させる。(写真4)
一方カシノナガキクイムシの成虫は、幹に孔をあけて幹内部に侵入して細い孔道を作って卵を産むが、その時に木を枯らす「ナラ菌」と幼虫の餌になる「酵母菌」を木の中に持ち込む。
「ナラ菌」は木の中で繁殖して木を枯らし、「酵母菌」は弱った木の中で繁殖する。

カシノナガキクイムシの成虫
写真3 カシノナガキクイムシの成虫
(左:雄、右:雌)

産卵された卵は幼虫となり、「酵母菌」を餌にして育って成虫になる。雌の成虫は、背中に5~6個の孔を持っており、この孔に「ナラ菌」と「酵母菌」の胞子を入れて被害木から飛び立ち、付近の健全木に潜入する。(写真5)
このように、虫と2種類の菌が共同して被害を拡大させている。

マツノザイセンチュウを病原体、マツノマダラカミキリを媒介昆虫として蔓延している松くい虫被害(マツ材線虫病)と極めて似ている。

ナラ菌 背中にある胞子を入れる穴
写真4 ナラ菌
(森林総合研究所HPより)
写真5 背中にある胞子を入れる穴
(森林総合研究所HPより)

⑤ 被害対策

この被害は、東北地方の広葉樹林を構成するナラ類を枯らすことから、里山の景観、シイタケ原木や薪炭生産、良質な内装材となるミズナラの生産などに大きな影響をもたらす危険がある。被害が発生しているのは、以前に薪炭林として利用されていたが炭焼きの衰退に伴って放置された広葉樹林である。
また、シイタケほだ木として太すぎるためさらに放置されたミズナラやコナラの大径木が中心となって被害が発生している。
このため、ナラ林(特に大径木)の利用を進め、被害を受けにくい森林へ更新することが肝要である。

(図提供:岩手県森林整備課、写真提供:佐藤平典氏 無断転載を禁じます)